瞬きさえも忘れていた。

「どうして? どうしてそこまでして……。私のこと好きじゃないのに。むしろ嫌いですよね?」


「好きじゃねぇけど、一回ヤってみたいんだよ。顔はフツーだけど身体の方は最高かもだろ? もし最悪だったとしても、それはそれで嘲笑ってやりてぇし?」


「最低……」


「何とでも言えよ。お前に嫌われようが罵られようが、そんなもん痛くも痒くもねんだよ」


嘲笑を浮かべ、低い声で凄んでみせる。


獰猛な眼差しに真っ直ぐ見据えられ、身の危険を感じて心臓が縮こまった。



「どうするよ? あいつのために俺にヤらせるか、あいつを見捨てて保身に走るか」


思考が混乱して、すぐには答えられなかった。


視線を逸らして俯けば、彼は小さく鼻を鳴らして笑った。



「考える時間も与えないほど俺は非情じゃねぇよ? じっくり考えろよ。まぁお前に選択肢なんかないだろうけどな。宴会終わったら、俺の部屋に来い。305だ、忘れんなよ?」


酷く傲慢な口調で一方的に喋ると、すぐさま甲本さんは立ち上がった。

そうしてようやく私から離れて、樽井さんの元へ戻って行く。



怖い。どうしたらいいかわからない。


無意識的に身体が震え出して、それを何とか鎮めようと、膝の上の両手をぎゅっと握った。