瞬きさえも忘れていた。

「知ってますけど、だからって気に食わない従業員をクビになんてできないと思いますけど? そんな権限、あなたにはないはずです」


「それができるんだよなぁ。ま、ちょっとだけ小細工はするけどな」


平然と卑劣なことを口にして、彼は不敵に微笑んだ。



「仕事続けたかったらさ、俺に抱かれろよ」

私の耳元に口を寄せ、掠れた声で囁く。



触れる息も、鼓膜を震わす低音も、不快で気持ち悪くて鳥肌が立った。



「あなたに抱かれるくらいなら、職を失った方がまし。当然でしょう?」

つい声を荒げてしまい、すぐ我に返って周りを見渡したけど、それは周囲の喧騒に打ち消されて甲本さんにしか届いてないようでホッとした。



「じゃあ、あいつはどうだよ? あの嫉妬深い彼女と近々結婚すんだろ? そしたら世帯主だ。なのに今、お前のせいで失業するとしたら?」


「『あいつ』って……岩本さんのことですか? 関係ない人を巻き込むのは止めてください」


「止めろと言われて止める訳ねぇだろ? お前はバカか」