瞬きさえも忘れていた。

「そう怒んなよ。寂しい想いしてんなら、俺が満たしてやろうか? って話だ。優しさだよ、優しさ」

彼はおどけたように肩をすぼめて、そんなことを言う。



「何が優しさですか。ふざけないでください」

余りの怒りに頭の中が真っ白になった。もうこれ以上、我慢なんてできない。


おもむろに立ち上がって席を離れようとしたけど、すかず腕を掴まれ制止される。



「放して」

冷ややかに見下げて、小さく呟いた。



「お前……この就職難に職失いたくねぇだろ?」

まあ座れ、と続けて甲本さんは私の腕をグイと引っ張る。そうして半ば強引に座らされた。



「言ってる意味が本当にわからないです」


「何がわからない? 俺に逆らうと職を失うっつってんだよ。簡単だろ?」


「どうしてですか?」


「だって、俺だもん」


そう言って、くっくっくっと愉しそうに喉を鳴らして笑う。



「あれ、知らない? 俺、中鉄社長の息子じゃんね?」