瞬きさえも忘れていた。

邪険にしたら、どんな仕返しをされるかわからない。こんな、社員のほとんどが居合わせている場所で晒し者にされたら、たまったもんじゃない。



「そうですか」

無視はせずに、曖昧な相槌だけを返した。


と、部屋の出入口に人影が見えたので、自然と視線をそちらに移した。

岩本さんが携帯を耳にあてながら襖を開け、そうして宴会場から出て行った。


甲本さんが言った『彼女の束縛が激しい』とはそういうことかと、ようやく気付く。



「何それ? 他人(ひと)ごとみたいじゃん。あいつとは愛し合ってたんだろ?」


「何が言いたいんですか?」


愛しい人の姿はもうないのに、依然、出入口の襖を見詰めたまま素っ気なく返した。

甲本さんと目を合わせたくない。それどころか、顔だって見たくないのが本音だ。



「あいつにフラれて寂しんだろ?」


「答えたくありません」


「こっち見ろよ。人が話してんのに失礼だろ?」


いきなり顎を掴まれ、無理やり甲本さんの方を向かされた。



「どっちがっ!」

あなたみたいな人に失礼だとか言われたくない、と。怒り顕わに言い返した。