と、更衣室のドアをノックする音が遠慮がちに聞こえた。



ドクッと心臓が跳ね、反射的に顔を上げてドアを凝視する。

鼓動が早鐘を打ち、全身に血が巡っているのを感じた気がした。


得体の知れない恐怖が私の中でムクムクと膨らんで、ぎゅうっと両腕で、さらにきつく膝を抱え込んだ。



「梨乃? いるんだろ? 猪飼さんたちに聞いた」


扉の向こう側から穏やかに語り掛けてくるその声は、間違いなく岩本さんのもので。


私が今、一番愛しくて――

一番会いたくない人。



猪飼さんのおしゃべり。

怒りの矛先がお門違いだと知りつつ、心の中で毒づいた。



黙ったままじっとしていると、岩本さんはまたドアを叩く。今度はちょっと荒っぽい。


「梨乃、開けろって。いるんだろ?」


語調まで心なしか荒っぽくなった。



もう放っといてくれればいいのに。どうしてこんなにも必死なんだろう。こんなの、岩本さんらしくない。


一言、文句でも言わないと気が済まない……とか?