「あなたが言わないなら、私が言います」

頑なな意志を込めて、はっきりと伝えた。


もちろん本気だ。



卑怯だけど、人間として最低だけど。

このまま彼女の嘘に振り回され続けて、諦めきれずに苦しんだり泣いたりするなんて嫌。



愚劣なことをして、岩本さんに幻滅され軽蔑されたって構わない。

むしろその方が、未練を断ち切り易くなる。



自分本意で身勝手で愚かな私を、どうか許してください。

誰に対するでもなく願った。



「そんなこと、させない」

伏し目がちに俯いた彼女が、ほとんど口を動かさずに小さくボソリとこぼす。



「えっ……?」

意味がわからず聞き返したけど、再び顔を上げた彼女の目線は、私の背後にある何かに向けられていた。



「達志!」

叫ぶようにその人の名を呼び、駆け出した彼女は私と擦れ違う。



それを目で追いながら振り返れば、彼女は躊躇うことなく、そのまま岩本さんの胸に飛び込んだ。