「これ、洗って返します」

躍起になってそう言うと、

「いや、替えがないと俺が困るんだけど」

と、元の無表情に戻って平静に返す彼。



「でも……汚くないですか?」


だって、私の汗を拭いたから。他人(ひと)の汗って普通、気持ち悪いんじゃないかな。



「別に」

素っ気なくそう言われて、掴んでいたタオルを手放し、力なく腕を落とした。



「では、失礼します」

何だか良くわからない挨拶を口にし、深々と頭を下げた。再び身を起こした時には、大きすぎるヘルメットが鼻のところまでずり下がってしまっていて、視界が真っ暗だった。


慌てて両手でヘルメットを元の位置に戻す。



プッ――

彼の口から微かに空気の漏れる音がした。


見上げれば、首に巻いたタオルの端っこで口を塞いで、笑いを必死に堪えていた。