瞬きさえも忘れていた。

「権利があるかどうか、そんなの知らない。でも嘘は良くないです。それぐらい、あなただってわかるでしょ?」


「わかんない。一旦は身を引いたくせに、関係ないふりして帰ったくせに、なんで達志に連れられてのこのこ戻って来たの? あんたが戻って来なきゃ、私だって、あんな嘘吐かなかった」


「何、勝手なことばっかり言ってんですか? 私がどんな想いで身を引いたか、あなたにわかりますか?」


怒りに任せて声を荒げた。



彼女が戻ったことを知って、一人、社宅から駅へ向かった時の私の気持ちなんか、この人にはわからない。

わかって欲しくもないけど。



「辛かったよね? わかるよ?」

彼女が口にした同情の言葉は、軽々しくて心もなくて空っぽで。

その顔には勝ち誇ったような薄い笑みを浮かべている。



敗者を見下す勝者の眼差しに、さっきまでの怒りを根こそぎ吸収されてしまったみたいで、私の中に残ったのは、惨めな敗北感だけ。



返す言葉も、喉を鳴らす気力すら奪われて、身動きもできずに呆然としていると、陽奈乃さんは矢継ぎ早に言葉を繋ぎ、そんな私にとどめを刺す。