「わかりました。幸せになりますから、岩本さんも……」


「うん」



守れもしない約束を交わし、上辺だけの納得で綺麗な別れを演出して。


これが正しいのかどうかわからないけれど。



「梨乃は……強いね。その強さ、俺に分けて欲しい」

ポトン、と。こぼれるように落とされた呟きは、多分、岩本さんの唯一の本音。



「自分の弱さを知ってる岩本さんも、充分強いと思います」

気休めにもならない慰めだけど、これも私の本音だった。



ゆるゆると車を降り立ち、そうして振り返る。


少し身を屈めて、助手席側の窓から中を覗き込んで、小さく手を振った。



岩本さんは左掌をこちらにかざしてそれに応えると、前に向き直る。そして、車をゆっくり発進させた。



私は強くなんかない。



諦めることが、自分にとって一番楽な道だと知っているだけ。


子どもみたいに駄々をこねて、みっともなく喚き散らしたって、状況は何も変わらないことを知っているだけ。



中途半端に大人なだけ。



大人になんか、なりたくなかった……。