瞬きさえも忘れていた。

「梨乃……俺のことは忘れて――


幸せになって」



穏やかに紡がれたそれは、私の胸の奥深くに沁み込んで。

グラグラと内臓を揺さぶられるような感覚に、めまいすらした。



「ひっどいわがまま……」

そう言って笑い飛ばしてやろうとしたのに、喉奥から出てきたのは嗚咽。



溜りに溜まった激情が一気に迫り上げてきて、慌てて口元を両手で抑えつけてそれを閉じ込めようとしけど。


堰を切ったように溢れ出した涙が、止め処なく頬を伝う。

鼻に触れる自分の指の冷たさが、哀れで惨めで一層泣けた。



岩本さんのことを忘れるなんて、出来るわけないじゃない。


わかっているくせに。そんなこと、岩本さんが一番わかっているはずなのに。



岩本さんは狡い。狡くて残酷だ。



そんなのは優しさじゃない、弱さだと罵って、暴言を吐き散らしてやれたらいいのに。

岩本さんの記憶に残る最後の私は、潔くて格好いい女でありたいと思ってしまう自分がいて。



いっそ思いっ切り嫌われることができたなら、岩本さんも楽になれるのに。