その場にうずくまって泣きじゃくる陽奈乃さん。その傍らに、岩本さんは力なく両膝を落とした。



「ごめん、陽奈乃。俺、そんなの全然、気付かなくて。少しだけ……少しだけ時間ちょうだい? 考える時間……」

彼女に向かってそっと囁くと、岩本さんは再び立ち上がった。


そして私の方を向き直り、

「梨乃、送ってく」

と。



――――今にも泣き出しそうな顔で笑った。






帰りの車中、岩本さんは黙々と運転を続けた。


その横顔は、考え込んでいるとか、思い悩んでいるとか、そんな感じは微塵もなくて、いつもの涼しげな無表情。



もう、答えは出ているのかも知れない。


……って、当たり前か。

彼女は岩本さんの子を身籠っているんだから、答えは一つしかない。


岩本さんに選択肢なんかあるはずがない。