瞬きさえも忘れていた。





岩本さんに手を引かれて、いつもの見慣れた道を戻る。



片側二車線の道路を、引っ切り無しに行き交う車のエンジン音がやかましい。


けれど、繋いだ手から伝わる温もりが心地よくて、周りの喧騒なんか、まるで自分には全く関係ない別世界のものみたいに感じて、とても穏やかな気持ちだった。



やっぱり……。

岩本さんといると、すごく落ち着く。



絡められた指に、もしかしたらこの平穏を失わずにすむかも知れないと、淡い期待を抱いた。



「どこ行くんですか?」

何となく尋ねれば、ほんの少し後ろを歩く私を振り返って、岩本さんは微かに口を開く。けれどすぐに噤んで、困ったような苦笑を浮かべた。



「もう会社は嫌ですよ? せっかく仕事終わったのに」

冗談めかして言い、それとなく返事の催促。



岩本さんは再び前を向き直り、そしてようやく、その口から言葉を押し出した。


「梨乃のこと、陽奈乃にちゃんと話すよ」