瞬きさえも忘れていた。

もの凄い力でぎゅうっと抱き締められた。

その苦しいほどの圧に、怒りに呑み込まれていた愛しさが蘇る。



「放して、触らないで」

閉じ込められた腕の中で、狂ったように暴れたけれど、

「出来ない。放さない」

岩本さんは腕の力を少しも緩めてはくれず。


私の耳に届いたのは、その頑なさとは不似合いなほど静かで穏やかな声。



絶望に打ちひしがれ、酷い無力感に襲われた。


逃れることを諦めた私の背中を、ようやく力を緩めた彼の右手が優しくさする。



愛しくて。

自分ではどうしようもないぐらいに、彼のことが大好きで。



その胸にしがみ付いて、嗚咽を吐き出した。



ようやく気持ちが少し落ち着いてくると、ここがどこだったかを思い出して、急激に恥ずかしくなった。


怖くて周囲に視線がやれない私は俯いたまま、岩本さんの胸からゆるゆると抜け出した。



岩本さんは私と擦れ違って、ベンチに置きっ放しになっていた鞄を拾い上げる。


「とにかく一緒に来て」

言いながら私の手を取ると、階段の方向へ歩き出した。