瞬きさえも忘れていた。

吉田さんと樽井さんが、突っ立ったまま呆然としてこちらを眺めていた。それぞれ、選んだ昼食をのせたトレイを手にしている。


声を発したのは多分、吉田さんの方。



どうしてだか、不意に樽井さんは私たちから目を逸らし、ほんの少し俯いてトレイの上に視線を落とした。



「何でもないって」

すぐさま甲本さんは明るい声音で答え、岩本さんの胸元から自然な感じで手を外した。



「おっ、今日の日替わり(ランチ)美味そう。俺もそれにしよっ」

吉田さんの方を見ながら笑い混じりにそう続けて、クルリと身を翻し何事もなかったように歩き去った。



その瞬間、張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れた。

と同時に、安堵の溜息が無意識に漏れ出た。



吉田さんと樽井さんは再びこちらへ向かって歩きだす。そうして、私の目の前に二人並んで腰掛けた。



そんな二人に、

「ちょっと鳴瀬さん、借りていい?」

岩本さんが柔らかい口調で尋ねた。