瞬きさえも忘れていた。

「しつこい男は嫌われる」

甲本さんの頭上で、岩本さんは小さく淡々と呟いた。



たちまち甲本さんは、背後を振り返りながら勢いよく立ち上がった。


「しつこくなんかしてねぇよ。まだ梨乃ちゃんから返事貰ってねんだよ! つか、何なんだよてめぇ、さっきから」

荒っぽい口調で凄んで見せる。



そんな甲本さんを、岩本さんは至って平静なまま見返し、

「そっ?」

と言って、スッと視線をこちらに移した。



不意に岩本さんと目が合って、ギクリとする。

バクバクと心臓がうるさいぐらいに早鐘を打つ。



やがて、ゆったりと口を開いた岩本さん。


「返事は?」

と、何を言い出すかと思えば、返事の催促。



だけど、微かに目を細めた温かいその表情に、守られているような気がして安堵感に包まれた。



「返事は……」

恐る恐る口にしながら、勇気を振り絞って甲本さんを見据えた。