瞬きさえも忘れていた。

開いた口が塞がらないって、このことだ。


『誤解なんかじゃなく、あなたは正真正銘、最低男です』

もういっそ、はっきり言ってしまおうか、そう思った時……。



「甲本、やめとけ。鳴瀬さん、困ってる」


ポン、と。甲本さんの肩に、大きくて厚みのある手が落ちて来た。



振り返るように見上げて、背後に立つ人物を確認した甲本さんは、露骨に眉根を寄せ、小さく舌を鳴らした。



「お前に関係ねぇだろ、ほっとけよ」

甲本さんは至極冷ややかに、吐き捨てるようにそう返し、再び私の方へ向き直った。



「ええっと……何だっけ?」

能面みたいな顔を、瞬時に柔らかい笑顔に戻して言う甲本さん。ゾクリ、背筋に悪寒が走った。



「あっそうそう、もう一回、俺とデートしてって話だ」

彼は子どもみたいに無邪気な『作り笑顔』で続けた。



この人――

普通じゃない。本当に怖い。