【珍獣使い】の憂鬱

信号機の意味も、横断歩道で手を挙げることも、道ばたに咲いている花の名前も、俺にはなんにもわかりませんでした。

特に怖かったのは犬です。

よもや人間以外の生き物がこの世に存在するなんて思ってもみませんでしたから。

人間と異なるその姿形、全身を覆う毛、四つ足歩行、鳴き声。
その全てが理解不能でした。


そして何より、犬よりもっと怖かったのが、人でした。

俺はきっと世界に3人しか人がいないと思ってたんでしょう。

俺と両親の3人だけ。

だって6年間、3人しか人を見たことがなかったんですから。

それが一気に何十人何百人と現れ、よくわからない言葉をしゃべり、時には誰かが俺に話しかけてきて、俺の小さな脳味噌はあまりの恐怖に強制終了を果たしました。

つまり、ぶっ倒れたんです。

入学式の記憶は、そこまでです。