――生まれた日も、雨だったからねぇ。

それは、祖母に聞いた話です。

生まれつき運がないのか、生まれた日も、幼稚園の運動会も、小学校の遠足も、中学の宿泊行事も、私にとっての大事な日はいつも雨でした。


「雨子。…お前はいっつも雨を降らすから雨子だな」

「止めてよ、あなた。学校でいじめられるわ」

「ククッ、それもそうだな」


そんな会話を、私が生まれた日に父と母は交わしたそうです。

私の本当の名前は永井 零(れい)。

でもこの名前で呼ぶ人はまれです。

私が幼い頃に事故で他界した両親から始まり、共に生活している祖父母、2つ上の兄、学校の友達も、みんな私を「雨子」と呼ぶのです。

幼い頃はなんだか嬉しくて、喜んでいたものの、高校二年にもなって「雨子」と呼ばれるのはさすがに、嫌気がさしてくるものです。

…と、朝ご飯を食べている今思っていました。


「雨子、しょーゆ」

「…」

「しょーゆ!」

「雨子じゃないってば!」

「雨男、しょーゆ」

「雨男はお兄ちゃんでしょ!」

「雨子は朝からうるせぇなぁ…」


一瞬怒りで醤油をかけてやろうかと思いましたが、仮にも大学生の兄に力で勝てる気もせず、私は醤油の入った容器をテーブルに打ちつけるように置きました。

『いくら止めてと言っても、止めないのが人間よぉ。“待て!”と言われて待つ泥棒がいるかぁ?そいつァアホだ』と、兄はいつもそれを言うのです。

もう耳にタコができるくらい聞き飽きたことですが、今日は珍しく言わないので少し調子が狂います。