桟橋を歩いてると、横浜港の入口となる赤灯台堤防が見えてきた。


休日になると釣り客で賑わう桟橋。


今はもう、恋人の場所になりつつあった。


私は生まれも育ちも横浜。


車で飛ばせば、数十分で、実家に着く。


「十和子が…兄貴の想い人だって知ってたら、手は出さなかった…」


風宮さんは桟橋のフェンスを両手で握り締め、夕闇に美しいアーチを見せるベイブリッジを眺め、自嘲的に呟いた。


私を抱いたコト…彼は後悔していた。


「今更…そんなコト言われても…仕方がないわ…」



私は彼のそばに近寄り、一緒にベイブリッジを見つめた。



私の29年間…持っていた貞操。


貞操を奪った…男が社長の弟とは…私だって思わなかった。