その桂木という人はそれから話があるとお茶に誘ってきた。ハルのことだし断るはずもなく私はその人と喫茶店に入った。
「なんでしょうか、話って。」
私はコーヒーを桂木さんはアップルジュースを頼んだ。
「ハルくんからなにか聞いてませんか?」
「――なにかって?」
すぐにピンときたがなんとなく知らないふりをした。
「旅をして絵を描きたいとか、そんな話は聞いてませんか?」
「‥ああ、そんなこと言ってましたね。」
コーヒーを一口飲むといつもより苦く感じた。
「あれ僕が薦めたんです。
彼には僕がいままで出会ってきた誰よりも可能性がある。彼をもっと広いところにでるべき人間なんです。」
桂木さんそれからハルの才能について嬉しそうに語った。
「‥どうしてそんな無責任なこと言うんですか?成功できる保障なんてないのに‥
もしうまくいかなかったらハルはどうなるんですか?」
私がそういうと桂木さんは座り直して私の目をジッとみた。
「――アユさん、私は彼に可能性を感じたんです。若いものを育てる立場として彼をこのままにしておくにはもったいないと思いました。失敗することを恐れてちゃこの世界では成功できないんです。
アユさん、ハルくんを支えてやってもらえないですか。」
私が黙っていると桂木さんは続けた。
「こういう職業はね、自分一人で戦いつづけると必ずダメになります。
評価でしか判断されなくて、うまくいくうちは楽しくて幸せだけど、落ち目になったら毎日毎日死にたくなるくらい孤独なんですよ。筆を見るのも嫌なくらい、絵が嫌いになる。
でも一人でも自分を認めてくれる人が居ればちがうと思うんです。」


