彼はとても不思議な雰囲気を持ち合わす人だった。


濁りがなく、限りなく透き通っている。

彼の眼差しから、そう感じとれた。


「あっ…あのっ
あたし…」


どれぐらい時間が経っただろう。

生暖かい空気は、いつのまにか肌寒さを誘い込んでいた。


「やっと目が覚めて
よかったよ。 」


彼はリズの目の前で優しく微笑んだ。

息していないかと思って実はちょっと焦った。と、彼は笑いながら付け加えた。


「ごめんなさい…。
歌を聴いてたら、いつのまにか眠ってしまっちゃって…。」


なんだか、まともに彼の顔が見れなかった。


「…そうなんだ。
俺の歌、そんなにつまらない?
これでも一生懸命
歌ってるんだけどなぁ…」

「え!
そんなつもりじゃっ…」

「ウソウソ。
真に受けなくていいからさ。」


彼は、リズとのやりとりを楽しんでいるかのようだった。


よく笑う人。


あの駅で見かけた彼とはまるで別人のようだった。


そして、

当たり前の様に彼の言葉の一つ一つには驚くほど丁寧な優しさがあった。