「それでね、ユウが私の腕をおもいっきり引っ張ってね、
気づいたら噴水に浮いてたのっ

あたし、本気でびっくりしちゃってー…

愛ちゃん?聞いてる?」


教室の片隅でリズと愛香はお弁当を広げ、ほんのわずかな昼休みの至福の時間を満喫していた。

上の空の愛香に何とか気づいてもらおうと、リズは彼女の彩りよい弁当の中から、タコさんウィンナーをひょいと摘み上げた。

「あ!
タコさんいただきーっと。

…愛ちゃん? 」

普段なら、大好物の物を盗られようものならば発狂してしまう彼女が、全くの無反応である。

愛香は机に肘をついたまま遠い世界で、さ迷っていた。


「愛ちゃん!!
愛ちゃん!!!
愛っちゃっっんってばっ!!」


リズはわさわさと愛香を揺すると、こっちの世界へと引き戻した。


「っ…うわっ、
…何、リズ、何か用?」


「何か用じゃないよー
ちょっと愛ちゃん、大丈夫?

ぼっーとしすぎだよっ 」

なんだか愛香は目の焦点が合っていない。

「…やだなぁ〜
寝てたのよ〜最近、寝不足でさー」


わかりきった嘘を平気でつく、彼女にリズは思わず溜め息を吐いた。


「…そうなんだ…
…起こしてごめんね〜 」


リズは敢えて突っ込まないことにした。

この数日間、愛香は明らかに言動がおかしくなっていた。


原因は…あの日見かけた、理久。

それしかなかった。