――バレンタイン前日



「はぁー……」

「どうかしましたか? 心菜さん?」


おもいっきりついた溜息に、陽呂が心配そうな顔で覗き込む。

あまりにも顔が近くて。


「べっ、別に! それより離れてくれる!?」

「あぁ、すみません」


そう謝ると、また前を向き歩き出した。


……可愛くないな、私。

自分でもわかってる。

でも、あまり近すぎて……
恥ずかしかったんだもんっ。



それから一言も喋らない陽呂を見上げては考える。


謝らなきゃ駄目、かな?

でも『ごめん』って言葉が難しい。

他の人にならすぐ言えるのに。


陽呂だけ。
陽呂だけには中々言えない。


「陽呂くーんっ」


ちょうど校門に入った時に、後ろから聞こえた声。

2人で振り返ると、そこには可愛らしい女の子が3人走って来て、そして陽呂の前で止まった。


チラチラと私を見る女の子達。

私は邪魔って事、かな?


「先行くわね」


そう言って歩き始めた。


「あっ、心菜さん。俺もっ」

「いいわよ、もう校内だし。
呼ばれてるんでしょ?
話聞いてあげなさいよ」


私を追いかけて来る陽呂に、振り返って言うと、女の子達が顔を見合わせ喜びの笑みを見せた。


可愛い……。


あんなに素直に表情に出せる子達が羨ましいよ。