「それはできないよ。何故なら、もうここに竜の杖はないからだ。あるのは、木彫りの竜だけ。十六年前、九月十五日、朝。突然、消えてしまったのさ。これを残してね」


 デインが、ニコリと笑った。ルナは、ハッとした。その日は—

「僕の考えが正しければ、その日は君の生まれた瞬間(とき)。そうだね?」


「…はい」


 デインは、木彫りの竜を、投げてきた。


「君にあげよう。手渡ししてやりたいが、どうもここからは出られなくてね。…あと、もう一つ。竜の杖をつくるのに必要な、樫の巨木の一枝は、常若の国にある」


 ルナは、木彫りの竜をしっかりと握りしめた。

 父を閉じ込めた水晶が、ルナの目に映る。


 今度は、流れる涙をこらえられなかった。

 アランが、ルナの頭を優しく叩く。小さな子をあやすように。

 その気遣いが、少しだけ嬉しかった。