「男にはプライドってものがある」
「プライドねえ。それで車を駆って湖へ」
「そのときゃ毒がもう回っていた。ノーブレーキで突っ込んでいる」

「なるほど、しまったと思ったがもう遅かった」
「そうだ」

「清一の話では、仲直りの乾杯もせずに一気に飲み干したから
変だと思ったと言ってます。もし誤飲だとしたら。
中身を知ってるわけですから大急ぎで救急病院、
ここでしたら大町病院を目指してまっしぐらのはずですが?」

「それはない」
「でも先輩、さっき誤飲でも自殺でもと言いましたよ」

「誤飲はありえない。小心者だった清二はいざその時となって
怖くなったのだ。もし清一をほんとに殺るつもりでいても、

とうとう実行する勇気をもてなかった。
それこそ成り行きでやけになって毒入りを自ら一気にあおったのだ」

「そういうもんですかね」
「ああ、そういうもんだ」

「それだけの根性があれば、兄貴にひれ伏して、いままでのこと
許してくれと涙ながらに暴露してもいいんじゃないかと?」

「それはドラマの見すぎだ。現実は小心者のひねくれた男は、
プライドのはざまでいとも簡単に死を選ぶ。その瞬間、
命そのものはしまったと感じる・・・・・・自殺だ」

「なるほど。・・・先輩、よく分かりました」

美しい山並みの中をパトカーがゆっくりと走っていく。
だんだんと小さくなりパトカーは見えなくなった。

美しい夕焼け。白馬の里が今、何事もなかった
のように暮れようとしている。

どこかでカセットのスイッチを入れる音が聞こえた。
テープが回りだし春子の叫び声が聞こえてきた。

「バカ!もうバカ!バカ!どうしてこうなるのよ。
もうドジなんだから。何もかも失敗じゃないの!
どうして間違って飲んじゃったのよ!盗む所までは

うまく行ってたのに、もう!最後の詰めが甘かったのよ。
清一に飲ませる毒入りを一気に飲むなんて、
ほんとにバカじゃない。もう一銭にもならないわ。

罰が当たったのよ。欲にくらんで大罰が当たったのよ。
バカバカしいったらありゃしない・・・うううっ。私の夢
も泡と消えてしまったじゃないの・・・うううっ。あんた!」

                       ー完ー