「病院?」
思いつめていた春子は、そう小さくつぶやいた。

南神城のトンネルを抜けて青木湖へ出る。
直線道路に大町まで10kmの標識が見える。

湖に面した崖の急カーブ、ガードレールの隙間、
両側が激しく外側に折れ曲がっていて湖に向かって

タイヤの跡がついていたが、清一は気づかず
そのまま大町へと向かった。
大町救急病院に寄る。

「どなたも急患は見えておられませんが」
再び神城に戻ったが、やはり清二は帰宅してなかった。
春子を下ろして森上へ戻る。

城山邸では皆が起きて待っていた。
「清二は見つからない。今日のところはこのままに
しといて、とにかくもう休もう」

厨房もそのままにして皆寝床に着いた。

翌早朝である。長野県警のパトカーが神城の清二宅
に止まっていた。
「ご主人が転落死されました。確認のためご同行願います」

さほど驚きもせず春子は、
「ハイ」
と返事してパトカーに乗った。

この時田中刑事は直感で春子は何かを知っている、
清二の死を予知していた節がある。

パトカーの中で、
「昨夜、ご主人に何か変わった事はありませんでしたか?」
「一緒に森上の塩山邸にうかがいました」

「何時ごろですか?」
「夜の十時ごろです」
「どういうご用件で?」

「数日前の晩に、主人がお酒を飲んで乱暴を働いたので、
そのおわびに・・・」
「そうですか」

その頃塩山邸には鑑識の車が止まっていた。
「厨房は全て昨夜のままです」
そういう清一を、鑑識の山本は疑いの目で見ている。

「ありがとうございます。このコップが清二さんのですね?」
「ええ」
「こちらは?」

「私のために清二が注いでくれたコップで、
まだ手をつけていません。清二が、こうやって
飲むとうまいと言って一気飲みして見せたんです」

「なるほど、その直後ですね、外に駆け出して行ったのは?」
「そうです」