八方山麓ゴンドラ乗り場では、乗る人の列が続いていた。
亜紀がおおはしゃぎで小百合と話している。

「きょう、お店はいいの?」

「ええ、だいじょうぶよ。臨時休業。今日はお休み。
ヨネおばさんはうちの母が見ているし今日一日
ゆっくりしましょう。ねえ、清一兄様」

「すまないね、ありがとう」
三人手をつないで家族のよう。清一と小百合、顔を
見合わせて照れ笑いをしている。

うれしそうにそれを確認して微笑む亜紀。
順番が来てゴンドラの扉が開いた。清一が先に
乗り込んで亜紀の手を引く。

「さあ、気をつけて」
次に小百合の手を引く。見詰め合う清一と小百合、しっかり
と手を握る。そのしぐさをうれしそうに見つめている亜紀。

ゴンドラが急上昇して視界が開け、森の中の谷の上を
昇っていく。亜紀が叫ぶ、

「わあ、こわい」
「じっとしてれば大丈夫だ」
清一が父親らしく言うと、小百合は優しく微笑んだ。