その日の夕方、買い物をして帰ったヨシは、
ビニール袋を全部小百合と亜紀に渡して
玄関先でことの全てを清一に話した。

清一は上を向いて腕組みし、しばらく考え、
力を込めてヨシに答えた。

「わかりました。おばさん!心配かけてごめんなさい」

翌日はすばらしい天気だった。山々の峰が間近に見えて
新緑が生命の息吹を叫んでいる。清一は思わず
大きく深呼吸をして、ここはいい所だと思った。

冬の八方はいわずと知れたスキーのメッカ。上級者達が
こぞって挑戦するのがこの八方スキー場正面のスラロームだ。
夏の八方はというと、これまた三千メートル級の

山並みを望みながら標高二千メートルのトレッキングが
できる超一流の山歩きスポットだ。

大雪渓、尾根歩きとなると本格的な装備が必要だが、
千数百メートルの八方尾根までなら、ゴンドラと二つの
リフトを乗り継いで誰でもすぐに登れる。

この日、エコーランドのお店を臨時休業して清一と亜紀
と小百合は、八方尾根まで登ることにした。

ヨネの寝室でヨシが話し相手をしている。清一が入ってきて、
「じゃあ、かあさん、亜紀をつれて八方尾根まで登ってくるよ」

「ああ、たのしくやるんだよ。亜紀に白馬を好きになって
もらわなくちゃ、何も始まらないからねえ。お前もこの村の
良さをもう一度再確認することだね。いってらっしゃい!」

「わかりました。よしおばさん行って来ます。
お袋の相手をしといてください」

「ああ、大丈夫だよこっちは。小百合は山のこと詳しいから。
天気が急変しそうだったら小百合の言うことを聞いて、
すぐ引き返してきておくれよな」

「はい、よくわかりました」

「小百合もこの私と一緒でこの村が大好きでな、空気の香りと
空の色で1時間後の天気がはっきりと分かるだで」