春子もまた父留吉と同じようにタバコを煙たげにすいながら、
「あのオバア、絶対にうちのこと嫌いじゃから、
一緒にゃ住まんよ。うちも大嫌い!」

清二がコーヒーを飲み干して、
「お袋は兄貴べったりじゃけ、くそったれ、いつか仕返し
してやる。兄貴の言うことなら何でも聞きよる、くそ!」

と言って床を強く蹴った。堀金が、
「まあもう少しの辛抱じゃ。ばあさんが死にゃあ、こっちの
もんじゃ。財産の半分はお前のもんじゃ。数億はあるでよ」

堀金は笑みを浮べ清二を下目から見上げる。
清二はそれでも不満の様子だ。

「同じだけ兄貴にいくのは我慢ならん。全部いままで
いじめられ続けたわしのもんじゃ」

「そうは言うても、相続放棄でもせん限り無理だで。それより
変な遺言でもかかれたら最悪や。いま、妹のヨシバアと小百合
が面倒見とると言うじゃないか、全部持っていかれるぞ」

「くそ。あの兄貴さえおらんけりゃ」
堀金が葉巻を消しながら清二を見つめて意味ありげにうなづいた。

それから数日後のことである。毎日五月晴れのつづいたすがすが
しい朝、エコーランドの店SAYURIをヨシが掃除していた。
そこに村人が自転車を止めてヨシに声をかけてきた。

「ヨシさん、あんた聞いた?あんたんとこの甥っこ清二が、
あちこち借金しまくって歩いとるだや」

「大町の飲み屋の付けじゃないのけ?」
「その何倍もの借金じゃとよ。しかも、その金全部兄の清一が
払うというて借用証勝手に書いとるぞ」

ヨシは不安顔で聞き入っている。
「何でも数千万じゃきかんらしいだ。噂じゃ、億越したとか
越さんとかかの話じゃ」
「・・・・・・・」

そう言って村人は去っていった。