清一が入ってきてヨネの横に座り胡坐を汲む。

「かあさん、色々聞いたよ。ヨシおばさんから」
「清二のこともかい?」
「ああ」
「できのいいお前ばかり可愛がりすぎて、ぐれたんじゃ」

「まあな。できのいい長男は東京に行きっぱなし。
できの悪い次男は、ぐれて隣村の娘と駆け落ち。
近くへ戻ってきたものの、その娘は母さんの一番嫌
いなタイプ。最悪だね、かあさん」

「そこまで分かってくれるんなら、帰ってきておくれよ」
「ああ、今考えてるとこ」
「ほんとうかい?」
「仕事はパソコンさえあれば何とかなる。
亜紀次第だね。学校のこともあるし」

ヨネ、黙って涙ぐむ。

「食事の用意ができましたよ!」
ヨシの声が聞こえて夕食が始まった。
居間に全員が集合する。

水炊きの用意ができている。いい匂いだ。
床の間を背にヨネを清一が介助して座らせる。ヨネの脇に
清一と亜紀が座ってヨシと小百合がまかないをしている。

「それじゃ、いただきましょうか?」
ヨネがそう言うと、皆一斉に、
「いただきまーす!」

と言って食事がはじまった。絶対に壊したくない幸せな
夕餉のひと時だ。涙をにじませながら、じっと野菜を噛
み締めている母の横顔を眺め清一には、

かつての一家を支えていた気丈な母の面影など、
ひとかけらも見られないほど母は気弱に見えた。

『おふくろも急に年をとってしまったものだ』
清一は心でそっとそうつぶやいた。