厨房では小百合と亜紀がビニール袋から
食料、飲み物を出して冷蔵庫に入れたりしている。
亜紀がペットボトル2本を出して、

「これ、どこへ置けばいいの?」
「あ、その盆の上に置いといて」

亜紀はペットボトルを丸盆の上においては見たが、
すこぶる盆のすわりが悪い。
亜紀は不審げな顔をして、

「このお盆、少し変?」
と顔をしかめた。小百合は冷蔵庫に物を入れ、しまって
から鍋類を出している。チラッと亜紀のほうを見て、

「ああ、それね。私のうちから持ってきたの。
子供の頃よくそれで遊んだわ」
亜紀はまじまじと盆を見る。

「へー、どうやって遊んでたの?」
小百合、おもむろに亜紀に近づき、笑みを浮かべて
丸盆からペットボトルを下ろす。盆に人差し指を当て、

「こうやって、えいっ!」
盆が一回転して止まる。亜紀、驚いて、
「あっ、すごい!」

と言ってすぐまねをするがなかなかうまくは回らない。
小百合が、
「ね、難しいでしょ。うまくいったらお慰み」

と言いながら鍋の準備に取り掛かる。
亜紀は必死で盆を回そうとする。
人差し指を盆の淵に当てて、

「えいっ!」
盆がくるりと1回転した。
「わっ、おもしろい!」

二人の楽しそうな笑い声が響き渡る。
一方、廊下では深刻そうに話しながら、
清一とヨシが歩いてくる。

「よく分かりました。どうも」
清一がヨシに目礼する。ヨシは口に人差し指を立てて
ヨネの寝室前で立ち止まり障子を開ける。顔だけ出して、

「姉さん、ただいま!今からすぐ食事作るからね」
テレビを見ていたヨネ、
「すまないねヨシ。ありがとうよ