記憶上書き屋

カタログには私の年収ほどの金額が記載されていたし、確かにそれはどどの人にとっても同じくらいの付加価値になるように設定されていたのだ。

そして記憶を再生するのにはひと月くらいかかる。そして修正するための時間と周囲をごまかすための工夫というものにひと月。

つまり2か月ほどで別人になれるのだ。


今までの思いが目からこぼれた。涙があふれてくる。私は勤めていても付き合っていても長続きしなかった。出来なかったのだ。

いつの間にか送られてくる嫌がらせのようなメールや鳴り止まないファックス。なぜか新しく住所を移しても転職してもそれは続いて……。


終わる。

終わるのだ。

自然に別人になれる。誰も不信を抱かずに誰にも迷惑をかけずに。
これが一筋のひかりでなくて何なのだろうか?


「田中さん、ありがとう」