記憶上書き屋

私は泣いていた。

自分ではどうしようもない悲しみが胸いっぱいに流れてきたのだ。その女の子もどれだけ辛くて助けがほしかっただろうか。一人で生きていくには幼すぎたのかも知れないし優秀なだけにプライドも高くて家庭の不和を口にすることは出来なかったのだろう。彼氏が出来ても4簡単に打ち明けられたとは思えない。勇気を出して告白したこともきっとあったと私は分かった。

誰も信じられない。

不幸な境遇の人ならみんなそう思う。どんな決意で打ち明けたのか毎日胃が痛くなるくらい食事もろくに取れなくなるくらいに悩んだに違いないのだ。それを簡単に否定されることの辛さ。

近藤さんは静かに私を見つめてすうっと深呼吸した。肩を落として瞳はうるんでいる。

彼女の不幸はここから始まったのかもしれない。

「16歳の時に母親が交通事故で死んでしまったの。唯一泣くことだ出来る相手だったのにね。彼女の母親は弱い人だった。精神的に弱かったの。女が一人で子供を育てるのがこれほど大変だと思ってもみなかった。不倫の果てに生んだわが子をうまく可愛がることが出来なかった。子供の泣き声を異常に嫌い子供に完璧を求め続けた。勉強も、スタイルも全てにおいて。彼女はそれにこたえようと必死だった。いつも1番を目指して頑張った。それを保つのがどれだけ苦しいことか母親はちっとも気づいてくれなかった。子供ってそんな風に追い詰められても母親に気にいられたいのね。容姿は美しかったし体系も恵まれていた。そういうこともみんな母親の望みを一層たかくしていったのでしょうね、もっとやれば出来るじゃないのと。話がそれたかもしれないわね。でも母親の死は不幸の始まりだった。義父は娘が受け取った保険金を手に入れたくて彼女を監視したの。行動を監視するだけでなく家では彼女を犯し続けた。彼女の携帯はいつも義父にチェックされて彼氏に彼女の強姦されるシーンを自ら撮影して送りつけた。もう犯罪」

「ひどい。ひどい。どうして彼女は逃げ出さなかったの」

「プライドが人一倍高いでしょう?弱みを見せられなかったのね。先生にも相談できなかった。結局、死んでしまったの。だけど死の少し前にここへ来たのよ。記憶を全て変えたわ。彼女が選んだのは天涯孤独の少女の記憶。だけど疲れたのでしょうね。私に最後にありがとうと言ってビルから飛び降りてしまった」