谷本信弥の、口から顎に落ちて喉仏に伝っていく水滴をじっと見つめていた。

 余程喉が渇いていたのだろう、彼は私の視線に気付く事もなく、すごい勢いで清涼飲料水を飲み干している。私はソレをこれ幸いと、何度も動く喉仏を観察する。今まで見てきた誰のどの喉仏より素敵で卑猥で私好みだ。
まるで思春期の学生のように、目に焼き付けようと必死になる。

 今や私は谷本信弥の、何より喉仏を愛していた。

 彼とは大学のサークルが同じというだけで、艶めいた関係ではない。いわゆるタダのサークル仲間でオトモダチだ。映画研究部なんて名前だけ。個々で観たい映画を持ち寄り、あらかじめ予定を合わせて一緒に観る人もいれば、偶々いた部員を捕まえて無理矢理一緒に観る人など。ジャンルも人種も様々だ。

 そして今日私は、以前から気になっていたホラー映画を持って部室に来ていた。1人で観るのは恐いけど、きっと誰かがいるだろうと思ったのだ。その誰かを誘えばいい、と。

 まさかその誰かが、素晴らしい喉仏をお持ちの谷本信弥だなんて、誰が想像出来た事だろう!


「ごめん井本さん、それ早く観よう?」
「…」
「井本さん?」
「えっあっ」


 ぼーっと喉仏を見ていた私の視界には、いつの間にか彼の指が何度も左右に揺れていた。しまった、見過ぎていた。