中に乗ると、乗客は2人しかいなかった。





 2人とも前の方に座っている。






「後ろで電話してくるね」





 小さな声でそう言った叶愛は、信号で止まった際にバスの一番後ろに行き、携帯をいじっている。





「お兄ちゃん?」

「…はぁー…」

「ちょっと! そんな大げさにため息ついてどうしたの」



 風花の声なんて全く聞こえていなくて。





 バスが信号から、動きだすのさえ感じられなくて。






 嬉しそうに電話を近づけて話す叶愛しか見えない。






 電話を切った叶愛は、バスが止まるのを待ってからこっちに歩いてくる。