可愛い系男子



「ここ上りたいんだろ? 手伝ってやるよ」



 そう言って私に一歩近づいた大和に思わず身を引く。



「嫌、大丈夫だから」




 理由もなく目頭が熱くなる。




 ひたすらに怖かった。




 この人に奪われたものなんて大したことないのかもしれないけど、なぜか恐怖だけ残っている。





「叶愛、昔から甘えなかったよな」

「…」




 甘えなかったんじゃない。




 あなたの空気に押されて甘えられなかったの。





 キスをするのも、体を重ねるのもあなたの気分次第で、今考えればめちゃくちゃだった。





 別れたのなんて、ほんの数カ月前なのに。





 あれから長かったようで、短かったんだ。






 無表情の大和と目線が合うと、小さく手が震えた。