座敷わらしは、またも驚いた。

ふしだらな娘だと思っていたミサだが、榊と麻子の問題に気を取られているうちに、いつの間にやら身を律していたらしい。


なぜか良太郎は赤面していた。



榊はそんな良太郎を見やってにやにやし、



「ははーん。ってことは、102は、ついに」

「さささ、榊さん!」


良太郎は慌てて榊の言葉の先を止めた。

何のことだかわからないらしい麻子と晴香は、顔を見合わせて首をかしげている。


榊はひとり満足にそうに、うんうんと唸りながら、



「いやぁ、いいな。102とギャル子がくっついて、花屋にもカレシができて。めでたいことだらけだ」


だが、無視したミサは麻子に耳打ちする。



「ねぇ、麻子さん。ほんとにいいの? 後悔しない?」

「人生なんてどうなるかわからないんだから、どうせだったら、楽しい人と過ごすのが一番でしょ」


ふたりは目配せして笑った。

榊は苦笑いで「聞こえてんだよ」と言うが、今度は特別、怒るようなことはなかった。


榊は缶を持ち上げた。



「なぁ。とりあえず乾杯しようぜ、乾杯」


騒がしいやつらだ。

本当に、呆れ返る。


だが、座敷わらしは、不思議と嫌な気分にはならなかった。



座敷わらしは、今日も明日も明後日も、移りゆく『スミダハイツ』の人間模様を見守ってゆくのである。








END