スミダハイツ~隣人恋愛録~



「聞いてよ、榊くん。私ね、巻頭特集を任されるかもしれないの。これってすごいことよ。私もう、やる気で燃えたぎってるの」


今日も焼き鳥を土産に麻子の部屋にやってきた榊。

榊はテンション高く酒を煽る麻子を、呆れた目で見ていた。



「お前ちょっと落ち着けよ」

「前祝いみたいなものよ。ほら、榊くんも飲んで、飲んで」

「ありえねぇ。『かもしれない』で、よくそこまで喜べるよな。そういうことは、本決まりしてから言えよ」

「ひどーい」


不貞腐れながらも、麻子は酒を飲み続ける。


すでに3本の缶が空だ。

麻子は完璧なる酔っ払いになっていた。



「私ねぇ、ずっと夢だったのぉ、巻頭特集ぅ」

「知ってる」

「だからねぇ、このチャンスをねぇ、絶対に逃したくないのぉ」

「だな」


呂律のまわっていない麻子に、榊は苦笑いで相槌だけを返す。

だが、麻子はいい気分に浸りきっていて、



「それでねぇ、私はねぇ、やる気で燃えたぎっててねぇ」

「何回も聞いたっつーの」

「だってぇ、巻頭特集だよぉ。すごいんだよぉ」

「わーかったから、飲み過ぎ」


大袈裟にビールの缶を振りまわしていたら、「こぼれるだろ」と、榊はそれを麻子の手から奪った。



「もう。返してよぉ」


奪い返そうとしたのに、榊は麻子の手をひょいと交わす。

酔っ払ってふらふらしている麻子は、そのまま体勢を崩し、榊に抱き付くような格好になった。



「あははー。ぐるぐるしてるぅ」