榊は息を吐く。
「昔の話、していい?」
言葉にするには勇気がいった。
今まで誰にも話したことなんてなかったから。
けれど、もう、自分の中だけに留めておくようなことじゃない。
「デザイナーになりたいってのは、俺の夢で。もちろんなるからには、一番上を目指したくて。だから本場で勉強したいってずっと思ってた」
「………」
「23の時、チャンスが巡ってきたんだ。色々なツテで、1年間パリに行けることになった。俺は迷わず行くことを決めた」
「………」
「でも、俺には当時、付き合ってるやつがいて。彼女は泣いて猛反対した。『1年も離れるなんて』、『そんなの寂しくて耐えられない』。だけど、俺の意思は固かったし、最後は彼女も『わかった』って言ってくれた」
「………」
「パリでの日々は、毎日が刺激的だった。服のことだけじゃなく、語学も文化も勉強しなくちゃいけなくて、すげぇ大変だったけど、でも本当に充実してた」
「………」
「彼女とはメールを交わし合った。国際電話は高いから、週に一度、1時間だけ。遠距離だし、会えないけど、それでも俺たちの心は繋がってるんだと、俺は信じて疑わなかった」
「………」
「だけど、半年が過ぎた頃くらいから、彼女は徐々に不安を口にし始めた。『カズマはいつも楽しそう』、『私はこんなに寂しい想いをしてるのに』、『どうせ私なんてもういらないんでしょ?』」
「………」
「俺はその度に彼女に言った。『確かにこっちは楽しいけど、お前のことを忘れたことなんてないよ』、『俺だって会いたいと思ってる』、『もうちょっとだから我慢して』」
「………」
「彼女は俺に依存してたんだと思う。俺がいなきゃ生きていけないような感じだった。でも、俺は、夢に向かってまい進してた。それが将来のためでもあると思ってたから」
「………」
「でも、帰国する1ヵ月前、彼女は突然『もう別れる』と言い出した。俺は、彼女は寂しさに耐え兼ねてそう言ってるだけだと思ってた。だからもちろんそんなの納得しなかった。だってあと1ヶ月すれば会えるのにだぞ?」
「………」
「なのに彼女は、『私がカズマを空港まで迎えに行くことはない』、『もう二度と会わない』と俺に告げた。俺はどうしてだと迫った。そしたら彼女、なんて言ったと思う?」
榊は自嘲気味に麻子に問う。
麻子は何も言わず、かぶりを振って見せただけ。
「昔の話、していい?」
言葉にするには勇気がいった。
今まで誰にも話したことなんてなかったから。
けれど、もう、自分の中だけに留めておくようなことじゃない。
「デザイナーになりたいってのは、俺の夢で。もちろんなるからには、一番上を目指したくて。だから本場で勉強したいってずっと思ってた」
「………」
「23の時、チャンスが巡ってきたんだ。色々なツテで、1年間パリに行けることになった。俺は迷わず行くことを決めた」
「………」
「でも、俺には当時、付き合ってるやつがいて。彼女は泣いて猛反対した。『1年も離れるなんて』、『そんなの寂しくて耐えられない』。だけど、俺の意思は固かったし、最後は彼女も『わかった』って言ってくれた」
「………」
「パリでの日々は、毎日が刺激的だった。服のことだけじゃなく、語学も文化も勉強しなくちゃいけなくて、すげぇ大変だったけど、でも本当に充実してた」
「………」
「彼女とはメールを交わし合った。国際電話は高いから、週に一度、1時間だけ。遠距離だし、会えないけど、それでも俺たちの心は繋がってるんだと、俺は信じて疑わなかった」
「………」
「だけど、半年が過ぎた頃くらいから、彼女は徐々に不安を口にし始めた。『カズマはいつも楽しそう』、『私はこんなに寂しい想いをしてるのに』、『どうせ私なんてもういらないんでしょ?』」
「………」
「俺はその度に彼女に言った。『確かにこっちは楽しいけど、お前のことを忘れたことなんてないよ』、『俺だって会いたいと思ってる』、『もうちょっとだから我慢して』」
「………」
「彼女は俺に依存してたんだと思う。俺がいなきゃ生きていけないような感じだった。でも、俺は、夢に向かってまい進してた。それが将来のためでもあると思ってたから」
「………」
「でも、帰国する1ヵ月前、彼女は突然『もう別れる』と言い出した。俺は、彼女は寂しさに耐え兼ねてそう言ってるだけだと思ってた。だからもちろんそんなの納得しなかった。だってあと1ヶ月すれば会えるのにだぞ?」
「………」
「なのに彼女は、『私がカズマを空港まで迎えに行くことはない』、『もう二度と会わない』と俺に告げた。俺はどうしてだと迫った。そしたら彼女、なんて言ったと思う?」
榊は自嘲気味に麻子に問う。
麻子は何も言わず、かぶりを振って見せただけ。


