榊の想いとは裏腹に、翌日は、朝から数件の打ち合わせがあり、ドタバタだった。
挙句、できあがったサンプル品の色が発注時のものと違うということが発覚し、これまたドタバタだった。
今日は一体何時に仕事を終わらせることができるのか、まったく目処が立たない。
ひと息つけたのは、午後2時を過ぎた頃だった。
榊がデスクでコンビニ弁当を広げ、遅い昼食を取っていた時のこと。
携帯が鳴り、ディスプレイを確認したが、知らない番号からの着信で。
「はい、もしもし」
「榊? あたし、あたし! ミサ!」
首をかしげる榊。
「誰?」
「はぁ? あたしだっつってんだろ! ギャル子だよ!」
「あぁ、ギャル子か。お前、それならそうと、早く言えよ」
「ありえない! 何でわかんないの! あんたあたしの名前知らなかったの?!」
発狂され、スピーカーが壊れそうだった。
榊は思わず携帯を耳から離してしまう。
「それよりお前、どうして俺の携帯の番号知ってんだよ」
「麻子さんの携帯を盗み見た」
「おいおい、それ犯罪だっつーの」
「わかってる。あとでちゃんと謝るし。でも、どうしても榊と連絡取りたかったから」
「何? お前、俺に告白でもしようって? 困るよ。俺はターザンと付き合うのは」
「いや、そういう冗談はもういいから」
制され、榊は困りあぐねてしまった。
ギャル子に言われるであろうことは、容易に想像ができるからだ。
だが、ギャル子は、榊の想像より遥か上の事実を伝えてきた。
「麻子さん、アパートの階段から落ちて、怪我した」
「は?」


