スミダハイツ~隣人恋愛録~

「逃げてねぇよ!」

「でも私と向き合うことから逃げてるじゃない」

「うるっせぇんだよ! もうお前と話してたくねぇんだよ!」


階段を降りようとした榊の背に、麻子は、



「榊くんにとっては、私って結局、その程度で切り捨てられるような存在だったの?」


そんなことはない。


愛してるに決まってる。

俺以上に麻子を愛してるやつなんているはずがないと思うくらいにだ。



だけど、榊は、何も答えずそのまま階段を降りた。



階段を降りた先には、大声を聞き付けたのか、ギャル子と102が不安そうな面持ちでこちらを見ていた。

榊はあからさまに舌打ちする。


それでも無視して行こうとしたが、ギャル子はそんな榊を制した。



「待ちなよ、榊。何があったの?」

「俺らの問題に口出すな」

「そうだとしても、そこまでマジギレしてるなんて、ちょっとあんたらしくないと思うんだけど。とにかく冷静に」

「なぁ、俺らしいって何? お前が俺の何を知ってんの?」


言い返すつもりはなかった。

だが、怒りの方が勝っていた。


102は、さすがに見ていられないとでも思ったのか、「榊さん」と、強い口調で言おうとするが、



「いちいち首突っ込んでくるんじゃねぇよ!」


わめき散らし、榊は『スミダハイツ』を出た。



わかってるんだ、本当は。

すべて、悪いのは俺だってことくらい。


けど、でももう、またあの悲しみを味わうくらいなら、先に自分から手を離して、少しでも楽になりたかったんだ。