デザイナーという仕事柄、会議や打ち合わせなどがある時以外は、基本的に自由な出社スタイルを許されている。


時間に余裕ができたので、その日、榊は昼で切り上げて部屋に戻った。

会社でデスクに向かっているよりも、自室にいる方がのびのびと作業ができるからだ。



さて、と、パソコンを起動させた時、チャイムが鳴った。



玄関のドアを開けてみると、花屋がもじもじしながら立っていた。

告白でもされるのかと身構えた榊だったが、それはまったくの見当違いだったらしく、



「あの、ご相談が」

「うん。どうした?」

「実は、その、映画に誘われたのですが、どういった服装で行けばいいかと思いまして」


相手は男だな。

榊はにやりとする。



「そうか、そうか。花屋にもついに春がきたか」

「いえ、まだそういうことではないですけど。でも、いつかそうなったらいいなと、私も思っています」


なるほど。


どうやら花屋は今、恋をしているらしい。

そして、だから自分に服装の相談をしてきたのだろう。



「変にかっこつけずに、いつも通りにしてろよ。あ、でも、パンツよりスカートだな。花屋にはシンプルな恰好が似合ってる。髪は軽く巻いてひとつにまとめて、アクセサリーは控えめに」

「はい」

「靴は履き慣れたものの方がいいよ。特にヒールなんかだと、下手に足を痛めたり転んだりして最悪なことになるからな。あとはまぁ、にこにこしてたらいい。そしたら服は、花屋の魅力の力になってくれるから」


花屋は目を丸くしていた。



「やっぱりすごいんですね、榊さんって。今、初めて尊敬しちゃいました」

「初めてかよ」


苦笑いする榊。

だが、悪い気はしなかった。


結局は服が好きな自分を再認識させられたからだ。