ミサは初め、花屋は榊が好きなのだろうと思っていた。

が、それはどうやらまったくの見当違いだったらしく、変な疑いを掛けてしまったことを心の中で謝罪した。


今は麻子同様、花屋はミサにとっては姉のような存在である。



「あんなに仲がよさそうだったのに」

「うん。でも、多分もう戻れないかも」


良ちんの想いに気付かなければよかったのだろうか。

あたしがあんなことをしなければ。


そしたらずっと、一緒に楽しくご飯が食べられたのだろうか。



「戻れないなら、進むしかないと思いますけど」

「……どういう意味?」

「前のように戻れないなら、その先で、新しい関係を作ればいいというだけでしょう?」

「簡単に言ってくれちゃって」


肩をすくめるミサに、花屋は、



「この世の中、自分ひとりが難しく考えているだけ、という場合も、案外多いと思いますよ。悩んでいる時は、特に」

「………」

「とことん話し合えばいいじゃないですか、102さんと。もう二度と会えなくなってしこりだけが残るよりはいい。あなたは102さんと話せる距離にいるんだから、簡単でしょう?」


それもそうかもしれない。

納得しながら、単純な自分にちょっと笑った。



「ギャル子さんらしくないですよ、悩んでるなんて。あなたに元気がないと、このアパートは暗くなります」

「あたしそんなに馬鹿キャラ?」


花屋も笑う。



「いただき物のケーキがあるんですけど、一緒に食べませんか?」

「マジで? いいの?」

「もちろん」


花屋は掃き出し窓から部屋に上がったので、ミサもそれに続いて101号室に入った。