スミダハイツ~隣人恋愛録~



昨晩は飲み過ぎた。

欠伸を噛み殺し、家を出て鍵を掛けていると、同じタイミングで隣の榊も部屋から出てきた。



「あ、おはよう」

「おー」


と、生返事だけを返した榊は、麻子を上から下までじっと見て、



「70点」


麻子がスーツで出社することは滅多にない。

会社では、特に服装に規定はなく、だから麻子も私服に近い恰好が多い。


が、たまに朝、榊に会うと、麻子はこうやってダメ出しをされてしまうのだ。



「何か違うんだよなぁ。悪くないけど微妙っつーか。あ、ストール持ってただろ? ペイズリー柄の。あれ巻いたら100点」


榊は飄々と煙草を咥え、「じゃあな」と去って行く。

麻子は少し迷ったが、室内に引き返し、急いでストールを手にした。


ストールなんて邪魔でしかないが、それでも仕事に差し障るというほどではない。


何より、女心としては、70点の恰好よりは、100点の恰好をしていたいから。

「髪はアップの方がいい」とか、「そのネックレスは外した方がいい」とか、榊にダメ出しをされるようになって以来、麻子は社内で「オシャレですよね」と言われることが増えた。



デザイナーをやっている人間にアドバイスされているのだから、それも当然と言えば当然なのだろうが。



服装に自信が持てるだけで、気持ちまで強くなる気がする。

麻子は苦笑いで駅へと急ぐ。


漠然と、今日はいい一日になる気がした。