スミダハイツ~隣人恋愛録~

良太郎は耳まで真っ赤になっていた。

声色から察するに、多分、また泣きそうになっているのだろう。


これじゃあ、あたしはまるで、お漏らしをしてしまった子供を咎める母親のようじゃない。



「……マジかぁ」


しかし、良太郎の真意を聞いても、なぜかすっきりしなかった。


それもそのはずだ。

ヤリたいと言われて、はいそうですかで終われるわけもないのだから。



良太郎はひたいを畳にこすりつけるほどこうべを垂らし、



「ごめんなさい、ミサさん。許してください。それでミサさんの気が済むなら、殴っていただいても結構です」

「いや、別にそこまでじゃないからいいけど。とりあえず顔上げてよ」


恐る恐る顔を上げた良太郎。

片方の鼻の穴からは、鼻水が垂れていた。


ミサはそれを見て、ちょっと引いてしまった。



「あたしさぁ、思うんだけど。良ちんにはあたしよりもっといい相手がいると思うんだよね。ヤルにしてもさぁ、あたしみたいな尻軽より」

「それはつまり、僕は遠まわしに振られたと解釈してよろしいのでしょうか」

「だから、振るとか振らないとかじゃなくてさぁ。いや、あたしも良ちんのこと嫌いじゃないっていうか、むしろ好きだよ? でも、そいうことじゃなくてさぁ」

「わかりました。では、ミサさんは僕をキープするということですね?」

「えっと、あのね? それ、すんごく間違ってると思うんだけど」


語彙力のないミサは、恋愛経験が皆無らしき良太郎に、これ以上、どう伝えればいいのかわからなかった。

むしろ、どうしてわからないのかとすら思う。


鈍いのもここまでくれば、他人には害悪だ。



「もういい。わかった。めんどくさいし、だったら良ちんの好きにしてよ」


ミサは投げやりに言い、キャミソールを脱ぎ捨てた。

下着姿になったミサを見た良太郎は、驚いて後ろにのけぞり、尻餅をつく。