ミサは102号室の前に立つや否や、ドアをガンガン叩いた。
「良ちーん! あたしー!」
少しして、ドアが開く。
良太郎はへらっと立っていた。
気が弱くて、うだつが上がらない感じに、今日ばかりは、無性にイライラする。
「あの、ミサさん。晩ご飯でしたら」
「ご飯なら友達と食べてきたからいい。それよりちょっと良ちんに話あるし、上がるね」
ミサは困惑する良太郎を押し退けて室内に侵入した。
良太郎はすっ呆けたように「お茶飲みますか?」などと聞いてくる。
ミサはまたイライラした。
「いいから、座って」
「あ、……はい」
素直にミサの言葉に従い、良太郎はちゃぶ台の前の定位置に、きっちりと折り畳んだように正座した。
何でもミサの言うことを聞く良太郎。
6つも年上のくせに、少しは偉そうにして見せたらどうなんだ。
っていうか、あたしはこんな、弱々しい男なんかタイプじゃない。
「ずばり聞くけど、良ちん、あたしとヤリたいの?」
ミサは腕を組み、良太郎にぐいと顔を近付けた。
良太郎はその瞬間、飛び上がったように「うひゃほ?!」と、わけのわからない声を出す。
だがミサは、それが肯定なのか否定なのかわからず、爆発してしまいそうだった。
「ねぇ、どうなの? あたしのこと見て興奮してんの? だから最近、変だったの?」
「いや、あの」
「もう! イエスかノーで答えなさいよ、まどろっこしわねぇ!」
顔をうつむかせた良太郎は、蚊の鳴くような声で「イエスです」と呟いた。


