スミダハイツ~隣人恋愛録~

「やっべぇ! すんげぇおもしれぇんだけど! 腹痛ぇ! うはははは!」

「笑いごとじゃないっつーの。あたしこれでも真剣に悩んでるんだよ? 一度、良ちんを病院に連れていくべきなのか、って」


ひとしきり笑った榊は、ごほごほと咳き込み、それでもどうにか呼吸を落ちつけたらしい。

煙を深く吸い込み吐き出して、



「そりゃあ、お前、あれだよ。病院は、違うだろ」

「何? どういうこと?」

「だから、どう言えばいいかな。男子特有のもんじゃね? ほら、お前がそうやってターザンみたいな恰好してっから」

「あたしはターザンじゃないんですけど!」

「いや、そこじゃなくて。あいつ、口では色々言ってっけど、多分童貞だろうし? で、今になって目覚めたんじゃねぇかっつー話で」

「はぁ?! 良ちんはあたしとヤリたいって思ってるってこと?!」


思わず大きな声が出た。

榊は曖昧に笑い、



「こら、静かにしろよ。夜の住宅街でそんなことを叫ぶな」

「だって、榊が変なこと言うからじゃん!」


それでも榊は、ミサをなだめるように、



「とにかくまぁ、そういうことは、俺じゃなくて直接本人に聞けよな。その方が早いし確実だろ?」


それもそうだと思った。


ぐずぐず悩むのは、性に合わない。

だったら、さっさと本人に聞いた方がいい。



その時ちょうど、眼前に『スミダハイツ』の明かりが見えた。



「あたしちょっと、これから良ちんの部屋に行く」

「うん。まぁ、穏便に話せよ。お前が怒ると102は委縮するだけだから」

「わかってるし」


ミサは榊に礼を述べることすら忘れ、一直線に102号室に向かった。