毎週水曜日に、こつこつ庭に花を増やした。

花だけではなく、土や栄養剤、プランターやじょうろ、スコップなどの備品も買ったので、出費はかなりのものになったが、でも満足感の方が大きかった。


夕方、晴香が庭に並んだ鉢に水をやっていたら、



「すげぇ。庭がこんなに変わったなんて」


今日もコンビニ袋をぶら下げた201号室の住人が、感嘆したように言って、庭に入ってきた。



「花屋のおかげだな。あんたがここに来てくれてよかった」


201号室の住人は、ふっと表情を緩ませた。

そして、濃いオレンジ色をしたマリーゴールドを見つめ、



「ところで花屋は、どうしてギャル子に防犯の話を?」


『ギャル子』というのが、晴香に対する『花屋』同様、103号室のギャルのことを指しているのだと、遅れて気付いた。

だからってどう答えていいのかわからず、晴香が困惑していたら、



「それは花屋が『無心になりたい』のと、何か関係があるのか?」


頭のネジが足りていないように見えて、鋭すぎて嫌になる。

晴香は曖昧に笑いながら、



「トラウマみたいなものですかね」


と、返した。



「あなたにもトラウマがあると言っていましたよね」


晴香は201号室の住人へと、視線を移した。

興味本位な気持ちもあった。


201号室の住人は、晴香にいつもの苦笑いを向け、



「俺を裏切って、永遠に手の届かない世界に行ってしまった女とは、もう話ができないから」