スミダハイツ~隣人恋愛録~



2年前のことだ。



晴香にはその当時、付き合っていた恋人がいた。

年上のサラリーマンで、晴香がよくお昼を買いに行っていた弁当屋の、彼も常連だった。


そこから話すようになり、意気投合して、3度目のデートで付き合うことになった。


彼は「仕事が忙しいんだ」と言い、ほとんど夜に晴香の部屋で会う程度だった。

でも、晴香はそれを不満だとは思わなかった。



月に一度は泊まってくれるし、何より優しくて、話も面白い彼のことが、晴香は大好きだったから。



愛していた。

当時25歳という年齢もあり、晴香は結婚も意識していた。


彼も「そのうちね」と笑っていた。


子供は何人くらいがいいか、男の子と女の子だったらどちらがいいかと、ふたりで話したこともあった。

だけど、ある日、そんな些細な幸せは、音を立てて崩壊したのだ。



彼の妻だと名乗る女性が、晴香の部屋に乗り込んで来た。



彼が妻帯者だということすら信じられなかったが、どうやら子供までいたらしい。

彼の妻は金切り声で叫んだ。


「夫を返して」、「訴えるわよ」、「アバズレ女」。


ショックだった。

でも、一番のショックは、それを聞いた彼が言った言葉だった。



「俺はこの女に誘われただけだ」、「愛しているのはヨウコだけ」、「許してくれ」。



彼は妻に向かって泣きながら土下座していた。

そして彼は、妻と共に半べそで帰り、以降、二度と晴香の前に現れることはなかった。


もちろん、それで納得できなかった晴香は、事実を確かめたくて彼に電話したが、すでに彼の携帯の番号は変わっていた。



晴香はあの日から前に進めないまま、ただ男性を信用できなくなり、今も夢の中で女の金切り声に怯えている。