やっと草抜きが終わった頃には、空は茜色になっていた。

結局、201号室の住人は、ずっとここでしゃがんだまま、晴香が草を抜くのを見ていた。


晴香が、抜き終えた草をゴミ袋に詰めていたら、



「すっきりしたな。庭が広くなった感じがする」


201号室の住人は、伸びをしながらすがすがしく言った。


あなたは何もしてないでしょ。

ひたいに汗しながら、晴香は心の中で毒づいた。



「今後、花を植えて行こうと思っています」

「花?」

「だってこのままじゃあ、殺風景でしょう?」

「だな。いいんじゃない? ここは花屋が好きにいじればいい。立派な庭師になれよ」


またしても、頭のネジが数本足りないような発言。

晴香は「庭師になるつもりはありません」と返したが、201号室の住人は、「そうか」と言うだけだった。



「楽しかったですか?」

「うん?」

「私が草を抜いている姿を、ただ見ているだけで、何の楽しみがありましたか?」


晴香は、遠回しに嫌味を言ったつもりだった。

が、201号室の住人は、クスクスと笑いながら、



「俺も無心になりたかったから」


茜色の空を仰いだ。



「俺な、デザイナーなんだけど。何枚も、何十枚も、納得いくまでパターン画を描いてるんだ。けど、時々、発狂しそうになる」

「………」

「そういう時は、諦めて、無心になるんだ。散歩したり、公園で近所のガキとキャッチボールしたり」


あぁ、この人ってフリーターじゃなかったのか。

晴香は遅れて今更なことを思った。